開催日:2025年2月26日

柴尾雅春、代表取締役社長 兼 CEOと中村高章、Life Solutions Company、コネクテッドビジネスユニット、ビジネスユニット長

写真右)柴尾雅春 代表取締役社長 兼 CEO
写真左)中村高章 Life Solutions Company コネクテッドビジネスユニット ビジネスユニット長

自動車領域、非自動車領域とも新規事業に取り組み、
次の成長エンジンに

ニフコが今後のさらなる成長のために模索しているのが新規事業。自動車領域、非自動車領域においてそれぞれ取り組んでいますが、今回は非自動車領域の新規事業であり、環境課題や将来的な人口減少に対応した「電池レスデバイス」を例に挙げながら、新規事業への取り組み方や課題についてお二人に聞きました。

自動車産業は先行き不透明。事業の偏りは将来のリスクに

柴尾雅春、代表取締役社長 兼 CEO

柴尾 私が2006年にスペイン赴任から戻ってきたときに、中村さんが新入社員として開発部門にいましたね。

中村 そうです。当時、柴尾さんが開発部門の部長で、直属の上司でした。私が就職活動をしたときのニフコのキャッチフレーズが「ヒラメキスト求む」。まさに自分のことだと直感して勇んで入社し、社内の自己申告書にはいつも「新規事業をやりたい、新規事業をやりたい」と書き続けていました(笑)。

柴尾 現在、ニフコの売上の約9割は自動車部品事業によって支えられており、業績は安定しています。ただし、自動車産業の先行きには不透明な部分も多く、事業構成が自動車部品に偏っていることは、将来的なリスク要因ともなり得ます。こうしたリスクに対応するため、当社では非自動車領域を含めた新規事業の開発に力を入れており、私自身も自動車・非自動車両方の領域における新規事業の立ち上げに深く関与しています。これらの新規事業を確実に立ち上げて、ニフコの持続的な成長をぜひとも実現したいと考えています。その中で、中村さんは、非自動車領域の新規事業立ち上げを担当していますね。

中村 はい。私が所属する非自動車領域のLife Solutions Companyは基盤事業である2つのビジネスユニット(住生活ビジネスユニット、Fitting Gearビジネスユニット)と、2つのビジネス探求ユニット(コネクテッドビジネスユニット、ウェルネスビジネスユニット)で構成されます。その中でコネクテッドビジネスユニットは企業と企業をつなぎ、お互いの資源を活用できる“共創体制”を構築しながら、「IoTを活用した新しいビジネスの発掘活動と事業化に向けた営業活動」を進めている部署です。協業の輪は東日本電信電話株式会社(NTT東日本)、丸紅情報システムズ株式会社など約20社に拡大しています。

 
 

ドイツのEnOcean(エンオーシャン)との出会いでひらめく

——中村さんが担当されている新規事業について教えてください。

中村高章、Life Solutions Company、コネクテッドビジネスユニット、ビジネスユニット長

 中村 今、取り組んでいるのは「電池レスデバイス」の事業です。さまざまなセンサーとして活用でき、デバイス内に発電ユニットを搭載しているため電池レスで稼働し配線は不要です。発電方法は主に電磁誘導発電、光発電、温度差発電の3種類で環境にやさしく、配線材などが不要なため簡易な工事で取り付けられ、人的工数はもちろん、工事に必要となる資源(人、物の輸送など)も大きく削減できます。ヨーロッパでは既に当たり前の技術で、照明のスイッチなどに活用されています。この分野で他社の追随を許さない強い特許を持っているのがドイツのEnOcean(エンオーシャン)というシーメンスからスピンアウトした会社。新規事業として何をすればいいのか模索する中で、2019年にEnOceanと出会い、これは可能性があるのではないかとひらめきました。

柴尾 アンテナを巡らせ、電池レスデバイスに目を付けたのはとても鋭いと思います。同じものを見たり聞いたりしても大半の人は立ち止まりませんから。立ち止まったことでまずは合格です。

中村 ニフコと親和性があると考えました。EnOceanはデバイス内の発電ユニットやセンサー基盤などを作るのが得意な会社ですが、プラスチック部品を作るのは得意ではない。そこにプラスチックに強いニフコが現れて、ニフコの部品で電池レスデバイスを製品化したらすごく魅力的ではないか。その点で両社の考えが一致し、一緒にプロジェクトを始めました。同社とは強固な連携関係を構築し、2022年から本格的に事業を推進しています。

 

ニフコ開発の電池レスデバイス

ニフコ開発の電池レスデバイス

DX化が遅れている教育分野に着目

——具体的にどんな取り組みをしているのでしょうか。

中村 電池レスデバイスを活用して学校のさまざまな困りごとを解決する「PLUSchool®」という、ニフコオリジナルの学校ソリューション(下図参照)の展開を始めています。教室内にCO2センサーや温湿度センサー、人感センサー、照度センサーなどの電池レスデバイスを設置し、生徒が授業に集中できるように教室内の環境を最適化したり、先生が生徒の居残りや照明の消し忘れを職員室にいたままで確認できるようになります。つまり、教育現場の環境を改善するとともに、先生方のオペレーションの負担を大幅に軽減するというサービスです。エアコンの自動制御により電気使用量やCO2排出量の削減も可能です。

——電池レスデバイスを学校で展開しようと考えた理由を聞かせてください。

中村 ビジネス発掘のための実証実験を行いながら、ニフコがサービス提供者になりうるターゲットを探索する過程で、教育分野は企業に比べDX(デジタルトランスフォーメーション)化が遅れていること、潜在・顕在ともに課題が多いこと、参入障壁が高いため競合がほとんどいないことに気付きました。ニフコが得意とする「顧客密着型ビジネススタイル」と非常に親和性が高いと感じています。

——実際に何校かで導入されたのでしょうか。

中村 まず2022年に私立三浦学苑高等学校(神奈川県横須賀市)と共同で実証実験を行い、その後、正式にサービスの継続要請をいただきました。私立修道高等学校(広島県広島市)にも導入され、東京都内の高校でも実証実験を行うなど多くの引き合いが来ています。導入先の学校では、例えば教室内のCO2濃度の見える化により換気のタイミングに気付けるようになり、積極的な換気によりインフルエンザなどの感染症対策に効果を発揮しているという嬉しいエピソードも寄せられています。

大きな社会課題「労働力不足」に対応するサービス

柴尾 経営者として非常に気になるのは進捗状況ですね。経営的に納得感が得られる利益が出るまでに、あとどのくらいかかりそうだと見ていますか。

中村 新規事業の立ち上げから本格的に利益が上がるまでを3つのステージに分けるとすると、今は2段階目のステージを過ぎ、最後の3段階目のステージに入りつつあるという認識です。ビジネスはここで大きく伸びるのが一般的なので、早く利益が上がるように邁進しているところです。電池レスデバイスに対して社内からも「ニフコが活躍できそう」「これまで培ってきたニフコの力がうまく使えそうだ」という好意的な声をもらっています。近々、横須賀市の公立中学校の熱中症対策用のツールとして導入される予定もあります。

柴尾雅春、代表取締役社長 兼 CEOと中村高章、Life Solutions Company、コネクテッドビジネスユニット、ビジネスユニット長

柴尾 「PLUSchool®」は電池レスデバイスのひとつのサービスだけど、さっき中村さんが「先生方のオペレーションの負担を大幅に軽減するサービスだ」と説明してくれたことなどからもわかるとおり、大きな社会課題である「労働力不足」、人口減少による人手不足に対応する事業であることが社内の共感を得られている根底的な理由でしょうね。だから私も電池レスデバイスの事業には総論としては賛成だけど、3段階目でのさらなる飛躍を期待しているので、サービスの展開先が他にもあるのではないかなど、ぜひビジネス領域の視野を広げていただきたいと思います。 

中村 学校向けのサービスで成功を収めて実績作りができれば、さまざまな業界で使えると考えています。

柴尾 電池レスデバイスは労働力不足という社会課題のソリューションのひとつ。あくまでワンオブゼム(one of them)です。さまざまな顧客の労働力不足のデマンドやニーズに対応できるように他のソリューションの品揃えをどんどん拡大していき、自動車部品と並んで柱になるような新規事業を構築することを期待しています。

中村 確かに電池レスデバイスが使用できる範囲は限定的で、例えば自動車への搭載は難しいですね。社内の自動車部隊から問い合わせがあっても、このスペックでは無理だというケースが何件かありました。

柴尾 電池レスデバイスについて今から展開していこうとしている作業については部下に任せて、中村さんは労働力不足という社会課題に対するソリューションの品揃え拡大に着手すべきでしょう。そうはいっても、自分で見つけたものを自分の手できっちり形にしたいという君の気持ちもよくわかるのだけどね。

 

中村高章、Life Solutions Company、コネクテッドビジネスユニット、ビジネスユニット長と柴尾雅春、代表取締役社長 兼 CEO

中村 今すぐというわけにはなかなかいかないのですが、任せられるように人材育成も進めています。実際、先ほどお話しした横須賀市の公立中学校の熱中症対策については部下が尽力しています。ただ、非自動車領域で新規事業を進めていくには、営業も設計もできて製造もわかる、他社とのネットワークも構築できるという総合力を備えていないとスタートラインにも立てないのが現実なので時間はかかります。

柴尾 一番重要なのは新規事業への情熱だよね。同じ物を売るにしても情熱がないと売れません。情熱があれば営業や設計、製造について勉強するし、他社とのネットワークを築く努力もするものです。
 
中村
 新規事業への情熱は部署の全員にあります。彼ら彼女ら自身が取り組みたいことをしっかり捉えて、それを製品・サービスという形にして売り上げていけるようになるためには、責任に慣れていくことが必要だと考えています。各自に担当を持たせるなどして、小さなレベルから順を追って責任を持つことに慣れてもらえるような環境作りをしているところです。これがうまく機能してさらにその下の代にも及ぶと、5年後、10年後に新規事業の人材の層が非常に厚みを増すのではないかと見込んでいます。

世の中の潜在ニーズに対応できる製品・サービスを

——電池レスデバイス以外に取り組んでいることはありますか。

中村高章、Life Solutions Company、コネクテッドビジネスユニット、ビジネスユニット長と柴尾雅春、代表取締役社長 兼 CEO

中村 「PLUSchool®」により、先生方からニフコというモノづくりの会社に興味を持っていただき、高校のカリキュラムのひとつである「探究学習」で何かできないかという打診を受けています。生徒たちにモノづくりを絡めた教育プログラムを提供するような形になるかと思います。昨年、高校でニフコにビジネスを提案するというプログラムを実施したのですが、その前提としてニフコがどんな会社なのか説明する動画を作成しました。すると「ニフコに入りたい」と言ってくれる生徒も出てきたのです。高校の探究教育への協力を通じて知名度が上がれば将来の人材確保にもつながるかもしれません。

柴尾 ニフコはBtoBの会社なので一般消費者の知名度はまだ低いですが、こういった活動が採用ブランディングにつながるメリットもありますね。

中村 新規事業への取り組みとしては海外にも目を向けています。Life Solutions Company内の住生活ビジネスユニットでは住宅設備用部品などを取り扱っていますが、国内での住宅着工件数は2〜3年前まで年間85万棟だったのが人口減少などにより2030年までに60万棟程度に減少し市場が縮小します。一方、インドに目を向けると現在でも年間700万棟の住宅が建設されています。人口増加により今後も着工件数が増えると考えると魅力的な市場なので、量産している住宅設備用部品とともに電池レスデバイスも販売できればと考えています。

柴尾 その際に重要なのは、自分たちの手持ちの製品・サービスをそのまま持っていくのではなく、インドのマーケットで本当に求められているのはどんなものなのか探求することです。ニフコがここまで成長したのは、それまでになかったプラスチックファスナーという自動車部品を作ったから。従来の金属製のネジ、クギ、ボルト・ナットと比較して、自動車生産の工数の短縮、車体の軽量化、錆が発生しないなどの優位性があった。もちろん金属製の部品でないと対応できない部分もありますが、モータリゼーションが進展する中で自動車業界の潜在的なニーズだったところを掘り起こすことができた。中村さんには社会課題に対するソリューションを提供できるように、広い視野で新規事業に取り組んでいただきたいと思います。

中村 これからの世の中のニーズが何なのか、それを捉えることが、柱になるような新規事業には不可欠ということですね。

新規事業開発により、持続的成長と企業価値向上を実現する

柴尾 新規事業開発は本質的に挑戦を伴うもので、多くのアイデアの中から真に価値を生み出せるものを選別していく過程が重要です。その中で、当社の強みを活かせる領域に集中投資することが成功確率を高めることにつながります。もうひとつ重要なのが期限を設けること。新規事業を立ち上げたら5年程度で成長ステージに入ってしっかり利益を上げ、かつ、その先のビジョンも見えていることが継続の条件です。また、経営資源の最適配分の観点から、定期的に事業ポートフォリオを見直し、投資効率の最大化を図っていくことも必要です。

中村 そう考えると電池レスデバイスについては成長ステージに入っているタイミングですね。最後の3段階目のステージでは、着実に売上、利益を拡大していきたいです。

柴尾 ニフコは非常に成功してきた会社です。成功の方程式もある。その方程式は向こう20年程度は崩れないでしょう。業績もいい。ですが持続的な企業価値向上のためには、さらなる成長戦略が必要です。市場に将来の成長可能性を示すには今までとは違ったことにも挑戦していかなければならない。それが新規事業です。新規事業により次の成長エンジンを作りたい。中期経営計画(2024年度〜2026年度)でM&Aも含めた新規事業への投資資金として数百億円の予算を確保しています。これを有効に使うのが私のミッション。資金を投じたいと思えるような成長エンジンになりうる新規事業を構築してほしい。その難しい課題に取り組んでいるチームのひとつが中村さんの部署だから、いろいろ注文を付けたけれど期待しています。

中村 先ほど人材育成について話しましたが、売上を拡大できるような営業の仕組みも作らなければならないということも考えています。期待に応えられるように尽力します。