写真左:柴尾雅春 代表取締役社長 兼 CEO(最高経営責任者)
写真右:佐野久実 執行役員 管理本部長/人事・総務・法務担当

多様な人材の能力を最大限発揮できる環境をつくることで、企業価値の最大化を目指します

ニフコは「ユニークで存在感のあるグローバル企業として成長し続ける会社」を長期ビジョンに掲げています。今回は、人的資本についての考え方と真のグローバルカンパニーとして成長していくために必要な人材戦略について、二人にお聞きしました。

Q.持続的な成長を実現するための人材戦略をどのようにお考えですか。

柴尾 従業員一人ひとりのエンゲージメントやモチベーションが上がれば、会社の成長につながります。私が社会人になった頃は「24時間働けますか」が流行語になった時代でしたので、今とは働き方も考え方も違いました。しかし、企業の成長には人が重要であることは当時も今も変わりません。人件費はコストではなく、資本ですから。人材への投資を行い、能力開発やスキル向上を通じて、事業の持続的な成長と生産性向上に取り組むことで、付加価値の最大化に注力していきます。

佐野 私は、長年、電気製品・電子部品のメーカーで事業系の仕事や海外マーケティングに携わってきました。ご縁があり2年前にニフコに入り、人事・総務・法務を統括しています。柴尾社長のお話しの通り、人的資本の投資を考える上では、会社の業績や持続的な成長にどうつなげていけるかを明確にすることが大事だと思っています。

柴尾 進め方は企業によって違いますから、教科書のない施策を考えていくことになります。この方程式の解をうまく噛み砕いて、いかに従業員に伝えていくか。そこもしっかりと考えていきたいですね。
中期経営計画では、既存事業の強化とともに新規事業や新製品の創出のために経営資源を重点的に投入していくことを掲げています。グローバル企業として成長していくためにも人材をどう育てていくかは重要です。 

佐野 その中期経営計画を踏まえた我々の人材戦略は、人材育成、多様性、エンゲージメントの3つを軸として、それぞれの施策を打っていくという考え方です。多様な人材の持つポテンシャルを可能な限り引上げ、かつエンゲージメントの高い職場にすることでそれぞれの能力を最大限に発揮し生産性やアウトプットにつなげていくことに尽きると思います。これは海外の拠点でも同じです。 

柴尾 ニフコは、世界に42拠点ありますが、それぞれの国や文化によって、キャリアに関する考え方も違うので、拠点ごとに異なるアプローチも必要だと感じています。海外ではジョブ型の人事体系が当たり前ですが、欧米流をそのまま日本に取り入れてもうまくいきませんから、ジョブ型の良い所を融合させながらニフコ流のジョブ型人事制度構築を現在進めています。 

Q.多様性というワードが出ました。その辺りもう少し詳しくお話をお伺いしたいと思います。

柴尾 今、我々が事業の主軸としている自動車業界は、「100年に一度の大変革期」と言われているくらい、不確実な時代に突入しています。このような状況では、今まで培ってきたものだけでは、時代の変化に発想が追いついていかないと感じます。多様な視点を持った人材が存分に活躍できる土壌が必要ですし、そこから次の成長戦略が見えてくると考えます。 

佐野 中期経営計画の中で社長も語っていますが、自動車領域での新事業、もしくは、自動車以外の新しい事業領域の開拓を進めることも必要です。そのためには、今までの延長ではない新しい視点を入れて考えることが必要になります。そういう視点を得られるような育成の機会を準備しています。 

柴尾 次のステップに進むためにも多様な視点が必要です。人も企業も、現状に満足していると変化に気づけないし、成長も止まってしまいますからね。 

Q.具体的にどのようなダイバーシティの目標や指標をお持ちでしょうか。

佐野 長年、ダイバーシティに携わってきましたが、女性活躍推進だけがダイバーシティではありません。当社のダイバーシティ指標としては、中途採用社員と外国籍社員、女性社員の3つを注視しています。このうち、中途採用社員は、当社では従業員の3割を超えていて、かつ管理職でも3割を超えています。また、従業員の外国籍社員比率は4%を超えて、管理職でも4%を超えています。これは日本企業の平均と比べ遜色のない数字だと思います。一方で女性については、従業員比率15%に対し、女性の管理職比率は6.3%で、まだ改善の余地があり、2027年度中に10%まで引き上げることを目標に取り組んでいます。 

柴尾 今年度から男女の賃金の差異に関する開示が義務付けられましたが、それぞれの等級の中では男女による処遇の違いはないのに、全体では男女差が大きく出ています。これは、現状で女性の管理職割合が少ないことが原因です。 

佐野 おっしゃるように等級によって女性の比率が変わってくるので正社員全体で見ると女性の賃金比率は男性の7割を切るような数字になっています。女性の管理職が増えていくに従って、この差が縮まっていくと考えています。ただ、だからと言って、特に女性だけを集めて育成するとか、指標を達成するために女性だけ昇進を早くするということはせず、各部門のトップと相談しながら、早期からの育成を推進するなど、持続的な施策を模索しているところです。 

柴尾 男性の育休取得率も上がってきましたよね。 

佐野 はい。男性の育児休暇取得率は、劇的に改善して40%を超えました。内容を見ると数週間単位で取得されており、かなり根付いてきたと感じています。今後は、育児休業を希望する人、全員が取得できるようにしたいと考えています。また、障がいのある方の活躍推進もしていますし、LGBTQの施策も進んでいます。今年4月から就業規則を改定して、同性パートナーも異性パートナーも、一定の条件を満たしている場合には婚姻の有無に関わらず配偶者と同様の制度を適用することになりました。 

Q.グローバルカンパニーとして成長していくために必要な人材はどのようにお考えですか。

柴尾 グローバルで活躍する人材の要件として、挑戦、変革、未来、協働、克服というキーワードを挙げていますが、その原動力はパッション(情熱)です。これはグローバル人材に限らず、すべての人材に共通することです。語学や知識・スキルとともにもこういったマインドの醸成が重要ですね。 

佐野 グローバル人材に求められていることは、20年、30年前と大きく変わっていないように思います。前職で海外赴任をしていた時も、相手の価値観や歴史・文化を理解し尊重し、その上で、目標を達成するために日々議論、コミュニケーションしていましたが、そういう場で求められるダイバーシティの発想は、昔も今も変わらず、それを体感する現場での経験がとても重要だと思います。当社では海外の拠点に日本の従業員を派遣する海外トレーニー制度があります。 

柴尾 そのトレーニー制度を利用して海外拠点から日本に来る人もいます。従業員やグループ間の交流を促し、成長につながる制度だと考えています。 

佐野 期間は1年間ですが、海外の受け入れ先から、ぜひ延長して欲しいという声も多くあります。1~2年でも、トレーニーとして派遣された方々は、みなさん大きく成長して戻ってきます。 

柴尾 トレーニー制度で海外を経験したことで、次は正式に海外赴任を希望する人が多いですね。 

佐野 自分の経験を振り返ると、私が一番成長したのは海外赴任をした時でした。異文化の中で勤務することで、ものすごく成長してきた実感があるので、みなさんにもいろんなことを経験して成長して欲しいと思いますし、それが会社全体の成長につながると思っています。 

Q.人材育成や研修の体系はどのようになっているのでしょうか。また、国内勤務の方でも異なる企業文化を体感する方法はありますか。

佐野 人材育成・研修体系としては、全社型・階層別型、自己研鑽型、選抜育成型の4つのカテゴリーでさまざまなプログラムがあり、社員の声を聞きながら実施しています。自律的にキャリアを考えプログラムを選ぶ、というのが非常に重要だと感じています。新たな、自社とは違う視点を学べるプログラムとして、希望する企業で働ける他社留学制度というのもあります。 

柴尾 私は新卒でニフコに入社し、ずっとこの会社にいますが、他社を知っている人は客観的に会社を見ることができます。グループ内の国内外の拠点はある意味、カルチャーは一緒ですので、新たな視点を得るという意味で、他社留学制度はとてもいいと思います。 

佐野 最近は、社外留学制度を導入している企業が増えていますね。 

柴尾 他社の違う文化を知る機会は大切です。設計者に限定されますが、ゲストエンジニアとして各自動車メーカーに出向する制度もあります。お客様や業界を知る良い経験になりますし、自社の強みや弱みも見えてきます。ゲストエンジニア経験者からは、ニフコの自由な社風や良さを改めて感じたという声も聞かれます。 

Q.さまざまな施策や制度を運用していく上で、従業員のエンゲージメントを高めるためにしていることはありますか。

佐野 2020年から2年ごとにグローバルの全拠点の従業員を対象にエンプロイーエンゲージメントサーベイ(従業員エンゲージメント調査)を実施しています。22年秋に第2回目を実施、調査結果の分析を行い、各組織の強みや弱み、今後の施策などをまとめ、関係者でフォローしています。サーベイの実施は人事で行いますが、その結果を各拠点や事業部にフィードバックして、各本部の組織長のみなさんがアクションプランを立てて、改善していくという流れです。具体例としては、第1回目の調査結果から、経営層とのコミュニケーションの機会を設けるために社長のタウンホールミーティングを始めました。社長が全国の拠点をまわり、現地の社員に業績や中期経営計画の説明をして社員からの質問を受けるというものです。 

柴尾 社員からはさまざまな意見や提案が出て、毎回、とても有意義な時間です。各拠点を回って話をしていた営業部長の時代を思い出します。当時は飲み会が意見交換の場でしたが、それに代わる伝達の新たなツールとなっています。 

佐野 名古屋工場でタウンホールミーティングを開催した時は、社員食堂の営業時間外に軽食や飲み物が購入できるように自動販売機を設置して欲しいという従業員からの要望があり、社長と工場長がその場で設置を決断しました。今、その自販機は稼働率がすごく高いと聞いています。 

柴尾 働く環境を改善することは大切ですし、当社には、それをフレキシブルに実行する土壌があります。人的資本については、重要な経営課題として、これからも役員会で継続して議論していきます。一方で、実効性あるものにするためには、部長クラスに会社の方針をしっかり認識してもらうことが重要です。日々の取り組みの中でいろいろな意見があると思いますので議論の場があった方がいいと思います。 

佐野 おっしゃる通りで、人事制度や施策は、各部門のトップや部長クラスの人達と一緒に作り上げていかないとうまくいきません。人事が音頭をとりますが、現場の組織長に同じ目線で動いて頂けるよう、連携しながら進めています。 

Q.ニフコにはテレワーク制度もありますが、実際いかがでしょうか。

佐野 多様な社員が活き活きと働くことのできる職場環境づくりを目指して働き方改革を進めています。所定労働時間の短縮やフレックスタイム、テレワークを導入して働き方の自由度を高めることは、エンゲージメント向上につながります。ただ製造業ですので、テレワークが難しい拠点や業務もあり、エンゲージメントを高めるための環境づくりをどう実現していくかを常に考えています。 

柴尾 今はパソコンとインターネットに接続できる環境があれば、どこでも仕事ができます。私も週2日テレワークをしています。テレワークを始めた当初は、本当にテレワークで仕事ができるのだろうか?と半信半疑であった時期もありましたが、不要な会議や通勤時間が減り、効率が大きく上がった、生産性が上がったと実感しています。1人でできる仕事は自宅で行い、出社する日は、会議や打ち合わせなどを集中的に行っています。 

佐野 柴尾社長は生産性が上がって生まれた時間はどのように過ごされていますか。 

柴尾 私は時間があると読書をします。本は知識の泉であるだけでなく、活字の中に描かれている風景や人生の機微に触れ、想像力を膨らますことができます。それは色あせることはありません。本や新聞を読んで、あるいは人の話を聞いて興味をもったことは、さらに調べて、時には現地へ行くこともあります。直近では、社外取締役に薦められて読んだ遠藤周作の『沈黙』の舞台、天草に行きました。
新入社員には、とにかく本を読んで旅行をしてください、あとは英語を学んでくださいと話しています。 

佐野 今年の入社式でもそうおっしゃっていましたね。それにしても、読んだ本から旅行に行くというのは、すごい行動力ですね。 

柴尾 SNSなどのネット上には、さまざまな情報が溢れています。そういった情報に惑わされず正しい判断をすることが必要ですが、それはなかなか難しい。自分が見て感じたことは真実だと思うし、いろいろな経験をして、自分の中の真実を積み上げていくことで情報の真偽を見極める目を養うことができると思っています。先日も新聞で目にしたマザー・テレサの言葉に深く感銘を受け、日記に書き留めました。「思考から言葉、言葉から行動、行動から習慣に移って、習慣から性格に移って運命になる」。実に示唆に富んだ言葉です。いつかインドでマザー・テレサの生涯をたどってみたいと思っています。この言葉は、どこかに貼り出してみなさんと共有したいと思います。 

 

Q.最後に、従業員や投資家などステークホルダーの方々へメッセージをお願いします。

佐野 これからの時代は、自律的に自分のキャリアを考えて自分の意思で成長していくことが求められます。それを会社としてサポートする仕組みや制度を準備していこうと思っています。一人ひとりが理想を描き、目標をもって進んで欲しいと思います。その上で多様な人たちが活かされる職場を作ろうとしています。まだ足りていないところもあると思いますので、社員のみなさんは、臆せず意見を上げていただき、共に理想の職場作りを進めていきたいと思っています。 

柴尾 投資家のみなさまに対しては、持続的な成長に向けた人的資本投資を引き続き進めていきます。その結果、新規事業や新製品を創出してグローバルでの競争力を高め、利益を出し、さらに社会に対して、どのようなフィードバックができるのかを考えていきます。一方、従業員に対しては、会社が人材に投資する意味を一人ひとりが理解をして、積極的にチャレンジして欲しいと思います。