中期経営計画で目指すのは、事業活動を通じてあげた利益を成長への投資とステークホルダーへの還元に充当する「二兎を追う経営」。それとともにサステナブルな経営を追求し、企業価値向上に努めます。

矢内 俊樹

取締役専務執行役員 兼 CFO(最高財務責任者) 兼 CSO(最高戦略責任者) 兼 経営統括本部長

インタビュー日:2024年8月


Q1 前中期経営計画の最終年度である2023年度の振り返りを聞かせてください。

近年、当社の経営数値は、売上高や営業利益は改善していく一方、その結果が一株利益(EPS)に反映しない悩ましい状況が続いていました。要因の一つになっていたのが収益の安定しない連結子会社です。その子会社(Nifco Germany GmbH、およびその子会社Nifco KTW America Cooperation)を譲渡したことは大きな決断だったと思います。財務的なインパクトのみならず、戦略的な面でも一大事でした。これらの子会社は、世界に目を向けて成長していこうというファウンダー(創業者 小笠原敏晶)の経営戦略に基づき、カスタマーポートフォリオの拡充を目的として、2013〜 14年にニフコの一員になったビジネスユニットです。当初は利益を上げ成長していたものの、近年はコロナ禍により工場の生産ラインが大きな打撃を受け、数年にわたり赤字状態が続いておりました。どのように立て直すか、どのように対処する方法があるか、社内において侃々諤々の議論を積み重ねるとともに顧客とのタフな交渉を行い、いろいろなご縁やタイミングもあり、譲渡に至りました。今回はこのような結果となりましたが、グローバル市場での成長は社是であり、今後新たなチャレンジも行ってまいります。

上述のディールによる特別損失の計上など、ステークホルダーの皆さまにご迷惑をおかけしてしまったことは反省いたします。その中でも私として非常に残念なことは、事情があるとはいえROE(自己資本利益率)が2桁台から1桁台(7.8%)に大きく下がったことです。ROEはご承知のとおり企業がどのぐらい効率的に利益を稼いでいるかを示す指標で、当社としても非常に重視し、長年2桁台を維持してきただけに1桁台への落ち込みは大きな衝撃でした。ただ、不安定な子会社を手放したことにより、今後は営業利益までの体質改善の努力が純利益にもおよび、EPSにスムーズにリンクする体質になるだろうと期待していますし、市場参加者にも安心感をもたらすのではないかと捉えています。落ち込んだROEについても早期に2桁と言わず、過去最高の水準に近づけたいと思います。

Q2 2024年度スタートの中期経営計画の骨子とミッションは何でしょうか。

2024年度は2026年度までの中期経営計画(中計)の初年度に当たります。中計3カ年全体の目標をお話しすると、前述の譲渡子会社の売上高は年間350億円でしたので、その減少分を3カ年でカバーしたうえで、2026年度には過去最高の売上高達成を狙います。収益面では安定的に営業利益率13%以上を確保できる体質確立の時期と位置づけております。自動車部品サプライヤーで13%以上の営業利益率を確保している企業は多くないため、かなりチャレンジングな目標ですが、これを毎年継続的に達成することを目指します。2024年度第1四半期(4〜6月)の営業利益率は13.8%でしたので滑り出しは順調です。とはいえ今後の自動車生産台数や中国経済の状況、為替動向などの不透明要因があり、第2四半期以降は油断できません。

一方、中計の大きなミッションとしてあるのが成長投資です。当社の既存のビジネスモデルである自動車向けプラスチックファスナーの製造・販売は盤石で収益性も高く、着実に成果を出していますし、先人が築き上げたこの強みは今後も継続するでしょう。さらに企業価値を高めるためには、通常のオーガニックな成長にプラスする成長が求められます。そのための資金は毎年の利益により蓄積されています。全く畑違いの分野への投資はハイリスクですので、モビリティ関連の中で素材やサービスなども含め、幅広く成長投資先を探索している最中です。矛盾するようですが、ニフコ固有の技術をモビリティ以外の市場に活用できるかもしれません。

ただ、利益のすべてを成長投資に向けるのではなく、これまでと同様、配当など投資家への還元も含めステークホルダーにも向けます。稼いだ利益を成長投資とステークホルダー還元への双方に向ける「二兎を追う経営」をニフコは追求し企業価値を高めていく所存です。

Q3 中計を踏まえ、CFO、CSO、経営統括本部長としての役割と抱負をお話しください。

CFO、CSO、経営統括本部長としてそれぞれに機能と役割はあるのですが、経営には総合力とバランスが肝要なので、役割の区別を意識せず全体感を見るように努めています。先ほど中期経営計画のお話をしましたが、それとともに重要なのは3カ年に留まらず、それを超える長期的視点に立ち、ステークホルダーの期待値を超える成果を上げ、企業価値の向上を図ることだと考えています。財務面とESG面の双方に寄せられる期待に応え、総合的な社会的価値を提供することを目指しています。

Q4 ESG経営と財務や成長・投資戦略の関わりについてはどうお考えですか。

経営の中で財務とESGは分けて議論できないステージにあり一体です。企業なので売り上げを伸ばし利益を得て、財務上の目標数値を達成するのが最重要ですが、同時にESGに取り組んで社会的価値や存在感も発揮していかなければステークホルダーからの共感が得られず、従業員は会社にプライドを持ちづらくなり、人材も集まりにくくなります。

当社では自動車メーカーなどに提案営業を行っているのですが、自動車メーカーの背後にいる消費者の方々に環境配慮への意識が高まっております。必然的にそれを考慮した提案を行うことが必要でありESG経営につながります。ESGのS(社会)でいうと、失われた30年というデフレ下でも、従業員に対して業績に見合った賃上げを行ってきました。従業員持株制度により業績に見合った株式の還元も行ってきたので従業員にも業績意識が高まり、株主と目線が共有されてきたのではないかと思います。今後も従業員への還元は続けます。それにより従業員が成長し会社が成長する、そのような好循環を生み出していきたいと考えています。

また、当社が取り扱うのは天然資源由来のプラスチックであり、環境面では素材そのものに課題があるように見られがちですが、購入したエンジニアリング・プラスチック(高機能樹脂)を、廃棄することなく、すべてを製品化する技術などへの投資は今後も行っていきます。非化石由来であるバイオ樹脂や生分解樹脂などの開発・研究も自動車産業全体で取り組む方向にあり、ESG投資につながっております。

Q5 今後、ステークホルダーにどのような価値を提供し貢献していく方針か聞かせてください。

当社は今ある強いビジネスモデルを活かしてしっかりキャッシュを生み出し、それを株主も含めたステークホルダーの皆さまに還元するとともに、一部は新たな成長投資に振り向け、それを継続的に行うことでサステナブルな企業価値向上を目指します。

株主の皆さまへの還元でいうと、配当、自社株買い、企業価値の向上の3つが挙げられます。配当は安定的かつ着実に増やしていく方針です。また、 すべての投資家にフェアであるために株主優待について現状は取り扱わないという考えです。

ステークホルダーの皆さまには、ニフコの存在、社会的価値に共感を持っていただけたらと思っています。企業は生き物ですから、いい時も悪い時もあります。どちらにしても会社が置かれている状況や改善策を丁寧にお伝えできるよう、ステークホルダーの皆さまに情報発信すること、コミュニケーションをとることを心がけていきたいと考えています。