「"アイデア"を"カタチ"にする会社」という長期ビジョンのもと、組織の強化や企業理念体系の見直しを実施し、社会の存続に貢献できる企業を目指します。
柴尾 雅春
代表取締役社長 兼 CEO(最高経営責任者)
自動車産業の大変革を含め、社会課題をチャンスと捉える
2023年のCEO就任以来、より長期的な視点に立ち、ニフコがこの先数十年以上にわたり、サステナブルに成長を続けていくには何をどうすればいいのか、ESGを念頭に置きつつ、さまざまな試みに取り組み始めています。背景には自動車産業の大変革があります。当社の主力製品は自動車部品なので、かつては完成車メーカーの生産計画に沿って経営計画を策定・推進すれば事業は回っていたのですが、昨今は状況が変わってきました。ですが裏を返せば大きなチャンスでもあります。自動車産業の大変革も含め、今起きている、これから起こりうるさまざまな社会課題をチャンスと捉え、新事業やビジネスの創出などにより社会に貢献するのが企業としての努めでしょう。
そこで当社の社会的使命として掲げた長期ビジョンが「"アイデア"を"カタチ"にする会社」です。アイデアというと製品(モノ)のアイデアを思い浮かべがちで、当社も長年多種多様なアイデアを製品化して世の中に供給してきました。ですがここでいうアイデアとは、社会課題を解決するために「コト」や「サービス」に関連した事業コンセプトをしっかりカタチにしていく、当社の成長と同時に社会貢献につながる事業を展開していくことを意味しています。
世代別に3階層に分け、強い組織作りを推進
この長期ビジョンを実現するには、経営層から従業員まで全員が当事者意識を持ち、次世代・次々世代へとバトンを渡していく必要があります。ニフコは日本のみならず北米・欧州・東南アジア、中国、韓国と6つのリージョンでグローバルに展開している会社ですので、全リージョンで同じビジョンを共有することが肝要です。
そのために始めた取り組みのひとつが、世代別に3つの階層を設けて強い組織を作ることです。第1階層は各リージョンのトップマネジメント層、第2階層は各国拠点のトップ、第3階層は40歳前後の中堅層が参加します。各階層とも20人ぐらいを目安に適宜参加者を入れ替え、それぞれ年2回程度ミーティングを行います。第1階層はある意味夢を語るのが役割で、将来的に会社がどうあるのが望ましいのか展望を議論し、そのための指針を定めます。第2階層は2024年度〜2026年度の中期経営計画のコミットメント達成を使命とする集まりで、課題となることや目標達成のための施策などを話し合います。第3階層は自分たちが主役になる、つまりトップマネジメント層や経営層になる未来を想像したときに、どんな会社でありたいかを議論します。
こうしたミーティングを通じて各層が情報共有し、どこのリージョンの誰が何に強いか、誰に働きかけるとビジネスがスムーズに進むかを把握できるようになれば、組織が強化されるのではないかと考えています。また、3階層の一番の若手である第3階層のミーティングは基本的に英語を公用語としています。英語にすることにより、日本語圏では獲得できないビジネスや人材の情報にたどり着けるのではないかという目論見です。企業で一番大事なのはやはり人だと考えます。日本のみならず世界のどこかに眠っているいい人材を掘り起こすことが成長の必須条件でしょう。
企業理念体系を見直し、従業員エンゲージメントを高める
強い組織作りには従業員エンゲージメントを高めることも欠かせません。そのために取り組んだのが企業理念体系の見直しです。下図に示したように各従業員が個々に持つ「My Purpose(マイパーパス)」を起点に据えているのがポイントです。誰もが「自分はこれをするために生まれてきた」、「こういうことをして社会に貢献したい」というように生きていくうえで大切にしている価値観、人生観を持っているはずです。それと会社の「Purpose(存在意義)」が重なった部分がマイパーパス、言い換えると会社の中で自分の価値観をどう活かせるかからすべてがスタートするので、従業員一人ひとりが主体的に「どうやって会社に貢献しようか」と考えるようになるのではないかと期待しています。
情報発信の重要性も非常に感じているところです。社内への発信と社外への発信のいずれも重視しています。社内でいうと、中期経営計画にしてもマイパーパスにしても、従業員に深く理解してもらうためには国内外問わず、私が直接足を運んで説明をしたほうがより伝わります。何度も顔を合わせるうちに次第に議論の中身も深まり、経営の舵取りのヒントも得られます。
一方、社外にニフコの取り組みを発信すれば、企業価値を上げることにつながります。新製品の発信などにも力を入れ、ニフコのブランド強化(ブランディング)も画策していきます。ニフコはBtoB企業なので自動車業界以外での認知度があまり高くありませんが、ブランディングの推進により認知度を高め、多くのいい人材にニフコという会社が存在していることを気付いてもらいたいと思っています。人材の確保は次にお話しする新事業の創出にもつながると確信するからです。
中期経営計画における3つの戦略ポイント
今後3カ年(2024年度〜2026年度)の中期経営計画は、3つの戦略コンセプトに基づき策定しました。1つ目は成長投資です。2021年度〜2023年度(2024年3月期)の中期経営計画は、課題があった子会社の譲渡により棄損した部分はあったもののほぼ達成できましたが、資金にゆとりがあるにも関わらず実現できなかったのが成長投資です。次の中期経営計画期間では数百億円を新たな事業に充当する考えで、自前主義にはこだわらずスタートアップ企業への出資やM&A活動により新事業の立ち上げをしっかりと行っていきます。ESGを重視した事業となる見通しです。
戦略コンセプトの2つ目は「グローカル経営」です。当社はこれまで日本で開発した製品を世界で販売するというビジネスモデルを展開してきましたが、それだけでは成長は続きません。現地(ローカル)の特性やニーズに応じた事業にスピード感を持って対応してもらうために、各リージョンのトップに一定の権限を委譲することを検討しています。現地主導のビジネス創出、つまり自動車産業の中での新ビジネスの立ち上げも狙っています。1つ目の成長投資で触れた新事業と、グローカル経営においてのビジネス創出を2本柱に据え、成長の推進力とします。
3つ目は先ほどもお話しした従業員エンゲージメントの向上です。向上策のひとつが前述のマイパーパスの設定です。先日開催した役員対象のパーパス研修で私自身も体験しましたが、従業員が実際に自身のマイパーパスと会社のパーパスのつながりを考え、会社でどのように自分の人生観や価値観が活かせるか方向性を見つけてもらいます。ダイバーシティも一層推進し、組織の活性化と次世代の人材をしっかり確保していきます。
このほかカーボン・ニュートラルの実現に向けた取り組みや環境保全活動も一層推進していきます。当社の主力製品は自動車に使用するプラスチック部品です。樹脂製品なので一見環境対策に反するように思われがちですが、これにより完成車の重量が軽減され燃費が向上し、トータルで見るとCO2の排出量削減につながる効果があります。間接的な貢献ではありますが、今後もビジネスと一体化した中で環境保全策を模索していきます。また、モノづくりには電力の消費が不可欠ですが、太陽光パネルの導入などによりCO2の排出量削減やコストの削減を図っていきます。
ステークホルダーへのメッセージ
ニフコはビジネスを通じて社会課題の解決に努め、社会の存続に貢献できる会社でありたいと願っています。それには当然のことながら、ニフコ自体が将来も存続できる企業でなければいけません。ではどうやって会社を存続させていくのか、そこのところに注目すると同時に期待を寄せてください。